【エストニアサウナ出張記 Vol.3】 木材一級品ができるまでの道のりを知る
2023年1月、totonoüメンバー7名がエストニアを旅しました。経営陣はエストニアに何度か来ていますが、施工担当のメンバーは初めて。今回の大きな目的は、現地のサウナビルダーから組み立て技術を学ぶことでした。ビジネスパートナーとじっくり話して信頼関係を深め、totonoüが輸入するサウナの製造・組み立て工程を自分たちの目で確認し、エストニア各地にあるサウナを満喫した数日間。エストニアの豊かなサウナ産業に触れた旅の軌跡を、同行した現地在住ライターがレポートします。 |
国内最大の木材加工メーカー「Thermory(サーモリー)」
1日目のバレルサウナ工場、2日目の家庭用サウナ工場に続き、3日目はサウナの木材を加工しているThermoryを訪問。Auroomの親会社でもあり、スタッフ数は300人以上。エストニア国内最大規模の木材加工メーカーです。
まず、Thermoryの敷地がとても広いことに驚きました。木材の加工所だけでなく、木材の保管庫や保管場所が広いところがポイントなのだと担当者のAnton(アントン)さんは言います。原材料の保管方法はその後の木材のクオリティを左右するからです。さらに、保管場所が加工所に近いため、必要な材料をすぐに取り出すことができて、柔軟な対応ができるのだとか。
Thermoryの看板製品は「サーモウッド」という断熱性の高い木材です。35 ~ 46 時間かけて木材に熱を加えることで木材の水分レベルを限りなく0%に近づけるという、20年をかけて開発された特殊技術が使われています。これがtotonoüが輸入するAuroomのサウナに使われている木材です。この加工により、高い断熱性に加えて耐久性や気温の変化にも対応できる木材の安定性が向上し、また軽量化などさまざまなメリットがあります。
サーモウッド加工所内の保管場所。サーモウッドはやや茶色がかった軽量で頑丈な木材です。
高品質の秘訣は厳密なチェック体制。
Thermoryの工場を見学していると、いかに品質チェックがしっかりしているかに驚きます。木材の品質をカメラが自動でチェックする工程がいくつもあることに加えて、要所要所で人の目によるチェックも入ります。「木材の完璧さは近年ますます求められているんですよ」とAntonさん。Thermoryは外壁被覆材や、デッキ、内装の壁パネル、そしてサウナの内装など、人の目に触れる木材を作っています。
「私たちは『PEFC』(Programme for the Endorsement of Forest Certification )やFSC(Forest Stewardship Council)など木材の品質や森林の持続可能な利用・保全・回復を担保する認証を取得しています」とAntonさん。
さらには「Nordic Swan Ecolabel」という製品の生産や消費による環境への影響を軽減することを目的とした認証も取得。ヨーロッパをメインとした取引先の会社は、こういったサステナビリティへの取り組みを重視するそうです。また、原材料はすべてラトビア、フィンランド、スウェーデンなどのEU諸国からのみ仕入れています。
工場を回っていると、端材を利活用したおもしろい木材を発見しました。totonoüのサウナには使われていない素材ですが、「フィンガージョイント」という技術を用いた素材です。ギザギザのジョイント部分に接着剤を塗り、2つ以上の素材を組み合わせる技術です。Thermoryはフィンガージョイントの技術力が非常に高く、その品質が評価されています。この取り組みは端材を無駄にせず、木材の廃棄量を減らすことにも繋がっています。
上/加工中に発生する木材の破片は集められて、フィンガージョイントの材料になります。下/フィンガージョイントも木材のひとつとして販売されています。
Auroomのサウナ製品で用いられている木材は、Thermoryの木材の中でも特に品質の高いAクラスです。「Auroomのメンバーは木材のクオリティのチェックがとても厳しいので、大変なんですよ。(笑)」とAntonさん。いわば、サウナの素材は選別に選別を重ねた、超エリート木材です。
こうしてAuroomは親会社のThermoryから良質な素材を価格を抑えながら仕入れることができています。Auroomのサウナの品質の高さや価格はThermoryの木材製造があってこそ成り立っているのですね。
若いチーム同士のシナジー。
AuroomもThermoryもサウナに関わるメンバーは比較的若く、20代や30代が中心です。アントンさんは20代後半。「同世代のtotonoüチームのメンバーはとても謙虚で、彼らとは気心が知れた関係です。サウナや木に対する愛と情熱を共有することはいつも刺激になりますし、個人的には、本当に長い間お互いを知っているような気がしています」とアントンさん。
会議では今後の展開について話し合われていました。サウナは日本のなかではまだサブカルチャーかもしれません。アレックスさんは「日本のカスタムやカルチャー自体をアップデートしていきたい」と話します。ここ数年はマンションへのサウナ導入の案件も増えており、また東京・神田のサウナラボ神田内にtotonoüのショールームもオープン。「サウナとともにある暮らし」があたりまえになるのも、そう遠くないかもしれません。
「エストニアと日本は、人々のメンタリティやサウナに対する愛情が似ていると思います。5年、10年後には、エストニアと同じように、日本でもほとんどの家庭にサウナがあるようになるんじゃないでしょうか。私たちは、エストニアのサウナ文化を日本にもっと広めるために、totonoüを全力でサポートします」とアントンさん。
「ThermoryチームもAuroomチームも、本当にコミュニケーションしやすいですし、作るものの品質が高い。さらに環境への取り組みなど含めて、会社として”ととのって”いるんですよね」とアレックスさんは言います。
フローティングサウナで疲れを癒す。
Antonさんとの打ち合わせのあとは、タルトゥを流れるエマ川に浮かぶフローティングサウナへ。この日の気温は0度前後。エストニアの冬の気温としては暖かいほうです。
エマ川の「エマ」はエストニア語で「母」。ほかにもいくつかのフローティングサウナが浮かびます。夏には(なかには冬でも)泳ぐ人も。
エストニアのフローティングサウナは貸切が主流。現地の人は、家族や友達を誘ってフローティングサウナでパーティをしたりします。誕生日パーティーでサウナを貸し切ることも。サウナの温度調整は自分たちで行う必要があるので、火が弱くなったら薪をくべます。
休憩スペースとサウナ室、トイレがついていて、サウナ室は最高で4人くらいまでしか入れませんが、休憩スペースも合わせると10人ほどは収容できそうです。
体が温まったら外へ出てエマ川へ浸かります! エマ川には数日前まで氷が張っていました。相当冷たいはず……。
お風呂上がりにはエストニアの伝統的な微炭酸飲料「KALI(カリ)」を一杯。ライ麦と麦芽を発酵させたジュースです。アルコール度数は1度以下のものが多いため、ソフトドリンクとして販売されています。黒パンの味がして、少しの甘みがありつつ、爽やかな喉越しが特徴の不思議なドリンク。
ここまでタリン、ラクヴェレ、タルトゥとエストニア内を大移動してきました。エストニア出張のメイン日程を終え、満足そうなtotonoü御一行。しっかりサウナを堪能した後、筆者に別れを告げて首都・タリンに戻っていきました。
文:橋本安奈