【エストニアサウナ出張記 Vol.1】バレルサウナ工場で出会った、プロのサウナビルダーチーム


 2023年1月、totonoüメンバー7名がエストニアを旅しました。経営陣はエストニアに何度か来ていますが、施工担当のメンバーは初めて。今回の大きな目的は、現地のサウナビルダーから組み立て技術を学ぶことでした。ビジネスパートナーとじっくり話して信頼関係を深め、totonoüが輸入するサウナの製造・組み立て工程を自分たちの目で確認し、エストニア各地にあるサウナを満喫した数日間。エストニアの豊かなサウナ産業に触れた旅の軌跡を、同行した現地在住ライターがレポートします。

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エストニア&日本のサウナビルダー、はじめての共同作業

totonoüが一番はじめに輸入し、フラッグシップモデルとなったバレルサウナ。エストニア北東部Rakvere(ラクヴェレ)にあるTesler(テスラー)というサウナメーカーが作っています。代表のAlari(アラリ)さんとtotonoü代表のAlex(アレックス)さんは元大関の把瑠都さんの紹介で出会い、意気投合。家族ぐるみでも付き合いがあり、よきビジネスパートナーとして共に歩んできました。

到着して早々、Alariさんが案内してくれたのはバレルサウナの製造現場。最近できたという新型モデルに施工メンバーは大興奮です。早速メジャーを取り出してサイズを測ったり、構造を確かめたりするtotonoü施工チーム。そんな様子をTeslerのサウナビルダーたちが微笑ましく見守っていました。



施工メンバーは、現場監督の中山さん、組み立て・メンテナンス担当の池田さん、長谷川さんの3人。

この日は今後導入を予定しているオーバル(長円形)サウナの組み立てを学ぶことになっていました。作業用手袋をはめて準備完了。まずは口頭でのインストラクションがあるかと思いきや「早速やってみよう!」と資材運搬と土台の組み立てが始まります。国は違えど、施工現場は万国共通なのか、totonoü施工メンバーもすぐに現場の勝手を覚えて、エストニア側2人、日本側3人の5人体制の共同作業は難なく進んでいきました。

そうこうしているうちに土台があっという間に完成。作業をしながらビスを打つ間隔や資材の面や向きなど細かな指示を受け、同時に時間短縮のコツも教えてもらいます。一緒に作業することで感覚的な部分も含めて体で覚えていくのがTesler式なのかもしれません。細かい部分の説明はtotonoü建築士の北村さんが通訳します。



Alariさんに製材の機械の仕組みを説明してもらう施工チーム。

バレルサウナは組み立て式ですが、誰でもきちんと組み立てられるということではありません。建材の隙間を誤れば換気が悪くなったり、耐久性が落ちることもあります。素早く、正確に組み立てるにはそれ相応の技術が要るのです。今回インストラクターを勤めたサウナビルダーのSiim(シーム)さんは、1000を超えるサウナを組み立ててきた経験があり、さすが軽やかな身のこなし。役割分担も完璧です。「大急ぎで取り組めば3時間で1台を組み立てられる」と聞いて、施工チームはびっくり。

確かに、エストニアのサウナービルダーたちを見ていると、背が高くて体格がよく、大きな資材もひょいっと持ち上げたり、サウナの上にすっとよじ登ったりしています。「一緒に作業していると、(エストニア人のサウナビルダーは)とにかく作業が速い!フィジカルな差はしょうがないですけど……」と苦笑する施工チーム。

一方で施工担当の中山さんは「彼らはこだわるべき部分と、時間短縮のための理にかなったテクニックを使う部分を効率的に使い分けていることに気づきました」と言います。きっとこの使い分けは一緒に作業してみなければわからなかったはずです。

作業は午前中からお昼過ぎごろまで続き、お昼休憩を除いておよそ5時間程度で終了。窓やドア、室内のサウナチェアやストーブのホルダーまで含めたオーバルサウナが完成しました。施工チームは確かな手応えを感じたようで「今度会った時は組み立て時間を勝負しよう!」とエストニアチームと約束していました。
 

 

エストニアのバレルサウナ事情

「わざわざ海外からバレルサウナの組み立てを練習しに来たのはtotonoüが初めてです」とAlariさんは言います。日本のほかに、エストニア国内はもちろん、フィンランドやノルウェー、ドイツにも輸出しています。



Tesler代表のAlari Tovstikさん。お昼休憩にはtotonoüチームを日本食のお店に連れて行ってくれました。

Teslerが創業したのは2000年。Alariさんのお父さんが立ち上げ、創業初期は製材業を営むかたわら、バレルバス(樽型のバスタブ)も製造しており、その後バレルサウナや屋外プール、キャンピングキャビンなど幅広い製品を展開してきました。



Tesler FBより。左がバレルバス。

エストニアやフィンランドでは、サウナだけでなくバレルバスも人気があります。バレルサウナはバレルバスの浴槽を横にしたような形なので、元々はバレルバスから着想を得て生まれた可能性もありそうです。Alariさんは2000年初頭からバレルサウナの需要の高まりを感じ、サウナの新事業をお父さんに提案して自分で始めました。

「エストニアにはバレルサウナを作っている会社が多いので、競争が生まれて品質やデザイン性の高いバレルサウナが多く製造されているんです」とAlariさん。フィンランドにも多くのバレルサウナがあるそうですが、生産コストの関係で作り手が多いのはエストニアなのだとか。エストニアにはTeslerのほかにもバレルサウナの製造に特化した会社がたくさんあり、バレルサウナの製造を生業にしている人が多いということがわかります。。



totonoü創業者のAlex(アレックス)さんとAlariさんで。

「日本やドイツへの輸出がはじまって、会社が成長して、スタッフの数も増えました」とAlariさんは言います。エストニアやフィンランドに比べると、日本のサウナ市場はまだまだ小さいですが、totonoüの事業がエストニアのサウナ産業や現地の人の生活にも影響を与えていることを実感しました。

 

小さな街にもクオリティが高いサウナが普通にある

totonoüチームが宿泊するのはTesler社の工場から車で5分ほどの距離にある「Aqva Spa」Alariさんも一家でよく訪れるそうで、多い時は週に4、5回も訪れると言います。エストニアのスパはエンターテイメント性に富んでいて、大人も子供も楽しむことができます。何種類ものサウナ、プール、ジャグジー、ウォータースライダー、レストラン、バーなどがスパの中にあり、水着を着て、家族みんなでゆっくりと時間を過ごします。家族割や年間パスなど、地元の人のためのサービスも充実しています。「サウナに入って、プールで泳いで、家族みんなでディナーするというのが、我が家のルーティーンです」とAlariさんは言います。



Aqva Spaには、「フィンランド式サウナ」「ソルトスチームサウナ」「ジュニパーサウナ」などスタイルや温度の異なるサウナが8種類もありました。

 「Aqva Spa」があるRakvere(ラクヴェレ)は、人口およそ1.5万人の町。「小さなまちにこんなに綺麗でクオリティの高いサウナがあり、ごった返すことなく、ローカルな人も使っているというところが、エストニアのすごさですよね」とtotonoü共同創業者の小林さん。

建築士の北村さんは「Aqva Spaはサウナ木材の板の組み方が精緻で、デザイン性や機能性ともに素晴らしく、エルゴノミクス(人間工学)に基づいて設計されていると感じます」と言います。

ですが、エストニアに住む人は家にもサウナを持っている場合がほとんどです。では、なぜわざわざスパに行くのでしょう?



サウナ完成後は、Teslerの工場の中にあるサウナに入って疲れを癒しました。

 「家にもサウナがありますが、安全面や手入れのしやすさなどを考慮して電気ストーブのサウナを使っています。スパには薪のストーブや、自宅用のサウナには入れられないようなサイズのサウナ、はたまたデザイン性やクオリティの高いサウナなど、家にはないものがあるから来ているんですよね」とAlariさん。Alariさんのような、サウナを生業にしている人がよく来るのですから、Aqva Spaは相当レベルの高いSpaなのでしょう。これは家にお風呂がありながら、温泉や銭湯に通う日本人の慣習に似ているかもしれません。

 

エストニアサウナ出張記 Vol.2 に続く

 

文:橋本安奈

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