『田中亜土夢 北欧のアスリート流・サウナの入り方』 〜totonoüアンバサダー就任記念 独占インタビュー 〜
この記事では、インタビューを通じて「サウナと共にある暮らし」をお伝えしています。 今回は、HJKヘルシンキでプロサッカー選手として活躍する田中亜土夢さんをお招きし、フィンランドでのサウナと共にある暮らしをお話していただきました。インタビューは、totonoüの代表・齋藤アレックス剛太が担当。フィンランドの首都、ヘルシンキでお話をお伺いしました。 なお本記事は、「医者が教えるサウナの教科書」の著者で、日本サウナ学会代表理事の加藤容崇先生、そして同じく医師で日本サウナ学会監事の塩谷隆太先生のダブル監修のもと公開となります。 |
フィンランド移籍のきっかけとは?北欧の生活事情
Q.本日はよろしくお願いします!さっそくですが、自己紹介からお願いします。
田中亜土夢(たなか あとむ)と申します。現在、フィンランド1部リーグのHJKヘルシンキに所属しています。
フィンランドには2015年に初めて来ました。3年間をフィンランドのサッカークラブで過ごした後、2018年に一度帰国。2年間を大阪で過ごした後、2020年から現在まで2度目のフィンランド生活を送っています。
撮影:Ayato Ozawa / 小澤 彩聖
Q.2015年にフィンランドのクラブチームに移籍したきっかけを教えてください。
28歳の時に同年代の選手が海外で活躍しているのを見て、海外のクラブチームへの移籍を考えるようになりました。当時在籍していた新潟に残る選択もありましたが、世界に飛び出してみたいという気持ちが次第に強くなり、移籍を決意しました。
当初からヨーロッパには行きたいと考えていたのですが、希望していたドイツ3部クラブのトライアウトには落ちてしまったんです。所属先を探していた時に採っていただいたのが、現在所属しているHJKヘルシンキの監督でした。年齢的には遅かったと思いますが、それでもフィンランドに来て良かったと感じています。
Q.北欧生活ももう慣れてきたかと思いますが、現在の生活はいかがでしょうか?
フィンランドの冬は暗くて寒いのですが、地元の新潟と似ている部分もあり、思っていたよりもキツくなかったです。雪国出身という点で初めから耐性があったみたいですし、身体的にもフィンランドの水が合っていると感じます。
またフィンランド人の国民性としては、日本人と似ている部分があります。サッカーへの姿勢や練習への取り組み方、トレーニングなどは共通する部分が多く、またシャイな人間性も似ていますね。 総じて過ごしやすく、フィットしてると感じています。
本拠地のスタジアムに、4つのサウナ!?
Q.亜土夢さんは背番号を37(サウナ)にするほどのサウナ好きで有名ですが、サウナにハマった最初のきっかけは何だったんですか?
フィンランドに来て、最初の物件にサウナが付いていたことがきっかけです。クラブハウスにサウナがあったり、チームメイトと貸し切りサウナで交流したり、とにかくフィンランドの日常にはサウナが溢れていました。
特に冬の期間は、練習後にスタジアムのサウナでゆっくり長く入ることが多いです。気温がマイナス5度の屋外で練習することもあり、体が冷えるので芯を暖めるためにサウナに入っています。スタジアムのサウナは70度くらいなので、ロウリュをして体感温度の調節をしています。
サウナではチームメイトと日常会話を楽しんでいて、おすすめのサウナを教えあったりすることも。チーム内でもサウナ好きで通っているため、練習前にはチームメンバーから「サウナのスイッチが入っているか」と確認されることがあります(笑)
Q.スタジアムにはいくつのサウナがあるんですか?
スタジアム内には合計4つのサウナがあります。僕が普段使っているのはホームチームのロッカールームにあるサウナです。
それ以外にアウェイチーム用のサウナ、審判室にあるサウナ、そしてVIP席にもサウナがあります。サッカー観戦しながらサウナに入るというのはいかにもフィンランド的ですよね。
アスリート流 サウナの入り方
Q.亜土夢さんのサウナルーティーンを教えてください。
アスリートとしての入り方でいうと、試合の次の日に入ることが多いです。試合の前々日くらいまでサウナに入りますが、試合前日は身体の緊張感を保つという意味で、あまりサウナには入らないです。
試合当日も、これは自分の感覚なんですが、90分走ってて疲れてる後で、少なからず身体に負荷がかかるサウナに入るとさらにしんどくなる気がしています。なのでサウナに入らず、その分睡眠をしっかりとって次の日の朝にサウナに入ります。
試合翌日の朝は、早朝のスタジアムに行って選手ロッカールーム内にある70度ぐらいのサウナで2セットを目安に入ります。スタジアムに到着してからサウナを温めている間は、前日の試合の映像を見ながら振り返りをしていたりします。その後サウナの中に入って、今度は頭の中でそのプレーを思い返して、「次はこういうプレーをやってみよう」というアイディアの整理をするんです。
💡 加藤容崇先生の一言コメント
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💡 塩谷隆太先生の一言コメント 試合前にサウナを入ることは、身体を緩める効果に繋がってしまうため、一般的に好ましくないと言えます。実際に2019年にアメリカで発表された論文では、水泳選手が試合前にサウナに入ることでタイムが落ちたという研究結果が示されています。私自身バスケットボールをやっているので自分自身で試してみたことがありますが、やはり試合前にサウナに入るとパフォーマンスが落ちると実感しましたね。ただ持久系なのか瞬発系なのかスポーツの特性によって、より細かくいうとポジションなどによっても変わってくる可能性があるので、究極的には慎重なパーソナライズが必要と考えられます。 参照:Effects of Postexercise Sauna Bathing on Recovery of Swim Performance(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31869820/) |
Q.サウナに入る目安の分数はあるのでしょうか?
分数で入ることはなく、心拍数を目安にしています。普段の倍ぐらいの心拍数を超えたら出る、といった具合です。自分は普段の心拍数が50くらいなので、100を超えたら出ています。より正確に計測するために、スマートウォッチと連動している心拍数ベルトを付けてサウナに入ることもあるんです。
また体調はその日によって違うので、自分の感覚も大事にしていて。スマートウォッチが無い時は「背中が暖まったら出る」という感覚で入ったりします。
調子が悪い時はいつもより短時間でキツくなって、早く出ることもあります。そのような時は無理はしないことを心がけています。北欧に来て、サウナを通して自分の身体をより知ることができていると思います。
💡 加藤容崇先生の一言コメント |
Q.特に試合後などは疲労が溜まると思います。サウナの中で疲れを取るために取り入れていることを教えてください。
横になって背もたれの上に踵を乗せたり、柵の上に足を乗せたりすることで、意識的に足を温めています。サウナ室の構造的に、どうしても足元が冷えやすく頭付近が温まりやすい性質があるため、横になることで身体全体を均一的に温めるイメージです。
足を重点的に温めたい時は、背もたれなどに足を乗せることで、高さをキープしたりしています。
💡 塩谷隆太先生の一言コメント
頭寒足熱という言葉もある通り、冷えてしまいやすい末梢である足を温めることは古くから重要とされてきました。サウナ浴においては、身体全体の深部対応を上げることでより体感の心地よさや効能が上がるため、足を上げることはとても理にかなっています。あぐらをかいたり、体操座りをすることで、近い効果を得ることもできますね。 |
外気浴はスタジアムのピッチで
Q.水風呂の入り方にこだわりはありますか?
水風呂は息を吐きながら30秒〜1分ぐらい。ここでも心拍数を目安にしていて、通常の心拍数ぐらいに戻ってきたタイミングで出ることが多いです。
💡 加藤容崇先生の一言コメント
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Q.外気浴はいかがでしょうか?
実は誰もいないスタジアムのピッチにあるベンチで外気浴をしています。外気浴はボーっとしてることが多いですね。開放感が最高です!
気をつけている点でいうと、身体の水分をしっかり拭いている点ですね。北欧の冬はかなり寒いので、気化熱で身体が冷えてしまわないように水分を落としてから外気浴をしています。時間でいうと3分から5分程度。脚の末端が少し冷たく感じたら室内に戻るようにしています。
試合しているピッチで前日のゲームを振り返れるのは、フィンランドのサッカー選手の特権かもしれませんね。
💡 塩谷隆太先生の一言コメント サウナと水風呂の後に外気浴(休憩)を入れることで、副交感神経が優位になり、脳がリラックスモードになります。「瞑想」や「マインドフルネス」に近い脳の状態になるとも言われています。アスリートは身体のみならず、試合や練習を通して頭をフル回転させることが多く、交感神経優位になる事が多いため、神経系の疲労を取ることも重要になるのではないでしょうか。 |
Q.スタジアムのピッチで外気浴!羨ましいです。サウナに入ることでパフォーマンスは改善していると感じますか?
今お話したサウナの入り方は、自分の感覚と医学的な根拠を織り交ぜた入り方になっています。医学的なサウナの入り方は今年になってから研究して取り入れていますが、如実にパフォーマンスの変化を感じています。特にここ最近はフル出場での試合が続いてたんですが、サウナに入ることで身体の芯から疲れが取れている感覚です。
実際にオリンピック選手のトレーナーの方に話しを聞いても、マッサージでは表面の疲れは取れるが、芯の疲れが取れないと言います。ですがサウナだと身体の芯の疲れがとれると言うのです。
以前までは試合が続くとサウナに入っても疲労感が残っていたので、感覚でやっていたことを研究して理論化することで、身体に取って良いことが起きている感覚がありますね。
💡 塩谷隆太先生の一言コメント 局所的なマッサージに対して、全身くまなく深部まで血流が流れる点がサウナの特徴と言えます。サウナに入ることで心臓のポンプ機能が70%上昇するとも※。血管の収縮/拡張を繰り返すという点で、臓器の血流も含めて、全身が大きくマッサージされているようなイメージです。ただし、水風呂に入った際には血圧も一時的に高まるなど、心血管系に負荷はかかるため、持病のある方などは注意が必要です。 参照:Health effects and risks of sauna bathing,Int J Circumpol Heal,2012 |
Q.”身体の芯から疲れが取れる”というのはアスリートならではの表現だと思います。今後はどういった形でアスリート×サウナを発信していく予定ですか?
サウナの中では感覚が研ぎ澄まされて、自分の身体を注視するようになりました。アスリートとして、サウナを通して、より身体と向き合うための時間も取ることができています。
サウナの入り方はまだまだ研究の余地があると思っているので、まずは自分の身体で実験・実践してみたいと思っています。その中で有効だと思ったものは、医学的な根拠と結びつけて、アスリートや運動好きの方向けに1つの例として発信できればと思います。
💡 加藤容崇先生の一言コメント サウナの医学的研究は欧米を中心に進んでおり、一般人のデータはしっかりあります。一方でアスリートのデータは必ずしも蓄積されているというわけではなく、また競技やポジションによっても疲労度合いが異なるため、一概にくくることが難しいと言えます。だからこそ、競技毎にきちんとまとまったデータを集めることに加えて、一人ひとりのデータをとり、個別でデータを分析をしていくことも重要であると考えています。 |
totonoüのアスリートサウナアンバサダーに就任
Q.今回totonoüではアスリートモデルとしてAuroom Baiaを販売開始します。家で入るサウナについてはどう思いますか?
いやー、カッコよくてテンションが上がりますよね!家にあったらほぼ毎日入ると思います。(笑)サウナがあると家での時間の使い方が変わるというか、サウナとの距離が余計近くなるんです。
実は今住んでいる家にはサウナがないのですが、フィンランド移住直後に住んでいた家にはサウナがありました。2段あって3人くらい入れる一般的なサウナです。入りたい放題だったので、週4~5の頻度で、お風呂に入るように入っていましたね。(笑)
特に冬はほぼ毎日入っていて、時間帯としては夜に入ることが多かったです。浴槽はなかったので、自分で買って水風呂にしていました。外気浴はベランダで。
家にサウナがあることで、サウナとの距離が一気に縮まって、サウナが日常になったんです。そういった世界観を日本でも実現できるのは素晴らしいことだと思います。
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Q. 最後に、totonoüのアンバサダーとしての意気込みを教えてください。
今お話した通り、北欧ではサウナと日常の距離がとても近く、アスリートも日常的にスタジアムや自宅でサウナに入っています。フィンランドやエストニアのように、アスリートにとってサウナがより一般的になり、サウナと日常の距離が近くなれば素晴らしいと思い、今回totonoüのサウナアンバサダーに就任させていただきました。
北欧在住のアスリートとして、アスリート流のサウナの入り方を研究して、日本の皆さんに知っていただけたらな、と考えています!
編集後記
このインタビュー中、街の中を歩いていても沢山の知り合いに声をかけられていた亜土夢さん。名実共にフィンランドの生活に馴染んでいる姿に、同じ日本人として勇気づけられました。
これからサウナ×アスリートの文脈で、共に発信できることが非常に楽しみです。
田中亜土夢選手プロフィール
1987年新潟県出身、プロフットボーラー。アルビレックス新潟で活躍し、2015年フィンランドリーグに移籍をきっかけにフィンランドと本場のサウナに出会う。 帰国後セレッソ大阪で活躍、2020年に再びフィンランドリーグHJKヘルシンキに移籍。幸せの国、サウナの国フィンランドの魅力を伝える為にウェブメディア"MOI SAUNA"を立ち上げる。趣味は水墨画。
監修:加藤容崇先生プロフィール
加藤容崇(かとう・やすたか)
慶應義塾大学医学部特任助教・日本サウナ学会代表理事 群馬県富岡市出身。北海道大学医学部医学科を経て、同大学院(病理学分野専攻)で医学博士 号取得(テーマは脳腫瘍)。北海道大学医学部特任助教として勤務したのち渡米。ハーバード 大学医学部附属病院腫瘍センターにて膵臓癌研究に従事。帰国後、慶應義塾大学医学部腫瘍セ ンターや北斗病院など複数の病院に勤務。専門は癌ゲノム(癌遺伝子検査)と癌の早期発見技術開発。加速する医療費増加を目の当たりにし予防医療の重要性を再認識し、人間が健康で幸せに生きるためには、健康習慣に よる「予防」が最高の手段だと言うことに気づき、サウナをはじめとする世界中の健康習慣を 最新の科学で解析することを第二の専門としている。サウナを科学し発信していく団体「日本サウナ学会」を友人医師、サウナ仲間と作り、代表理事として活動中。初の著書「医者が教えるサウナの教科書」(ダイヤモンド社刊)はロングセラーになり、第二弾となる「サウナ大全」(ダイヤモンド社)も7月26日に発刊予定。
監修:塩谷隆太先生プロフィール
塩谷隆太
Sauna doctor /M.D/Ph.D
北海道大学医学部卒業後、大学病院を始め、道内各地での形成外科勤務を経て、医療ベンチャーなどに勤務。予防医療サービスを提供するwellness(株)や、会員制サウナ「THE・」のディレクション、日本サウナ学会の監事など様々なプロジェクトに参画中。よりよく生きるための「well being」に興味を持ち、人々の「健康をアップデート」することをvisionに掲げている。